シャカシャカと唯一解理論

こんばんは。きなこ屋です。

今回はシャカシャカにおける唯一解理論について検討してまいります。

 

先に述べておくと、この記事を作ることには消極的でした。きなこ屋は唯一解性を確認することもパズルを解くことに含まれると考えているためです。唯一解理論を使ってシャカシャカを解くことはこのポリシーに反するばかりでなく、唯一解理論を知っているだけでも確認の楽しみを妨げることを懸念しておりました。

しかし、特に手筋物のシャカシャカを作問するに当たっては、余分な解き筋を削減して想定ルートに誘導することが欠かせません。唯一解理論の解析も従って必要とされることでしょう。

この記事は唯一解理論を用いることを推奨するものではありません。目的は唯一解理論の強力さと解答・作問に与える影響を認識することにあります。

唯一解理論(ユニークネス)とは

ある盤面が唯一解(ユニーク)である、という情報を利用して盤面の一部または全体を決めることが出来る手筋のこと。

(ペンシルパズル百科より)

解が1つであるという暗黙のルールを要する推論が唯一解理論となります。

ここではいくつかの唯一解理論を観察してみましょう。これらはいずれも「解を持つならば複数解」な状態にはならない、という考え方を用います。

 

※この記事は裏・手筋集とも言えます。もし以下に挙げる他に唯一解理論を発見・研究されている方がいらっしゃいましたら、ご意見お寄せください。

その1:2×2の空間

[例題1] を[図1]Aの状態まで解き進めます。

Aの状態は中央に赤で示した2×2の不完全な空間があります。

もし隣の青マスにBのように三角形を配置したとすると、中央の空間は完全に孤立しますので、空間に三角形を入れる場合(D)、入れない場合(E)を区別することができなくなります。Dの状態が解を持つならEも解を持ちますし、逆も同様です。従ってBは解を持つならば複数解です。

解く過程で唯一解(A)から複数解(B)になることはあり得ませんから、Bは解なしだと判明します。これによりAからCへ推論することができます。

隔絶された空間の内部が複数解になりそうな場合は、周囲と接している部分が白マスになる、と一般化できます。Aでの正攻法は1の手筋ですが、Cの状態になれば右の1がすぐに確定し楽に解くことができるでしょう。

[図1]

その2:隅の空間

[例題2]を[図2]Aの状態まで解き進めましょう。

Aの状態は右下に確定しなさそうな空間が存在します。そこでAの青で示す部分に注目しましょう。

Aの部分の三角形の置き方はB,C,Dの3パターンが存在します。しかしながらB,Cでは右下の茶色部分に三角形を入れる/入れない置き方が区別できません。B,Cは解を持つならば複数解となります。

やはり解く過程で唯一解(A)から複数解(B)になることはあり得ませんから、B,Cは解なしです。よってAからDへ推論することができます。

Dの形に到達すれば黒マス2が確定し、残りの空間を容易に処理することができます。正攻法では2の周囲をしらみつぶしに調べるか、技巧的ですが左下の2の真右を決める必要があるでしょう。

[図2]

その3:隅の空間Ⅱ

その2の類型として、[例題3]を題材に紹介します。

Aの状態は、右下隅から3行3列の位置に1がぽつんと浮いています。

まず1の青で示した真右に注目すると、B,C,Dの3通りの置き方が存在します。このうちBは直ちに破綻します。Cの場合は右下の茶色部分に三角形を入れる/入れない場合が区別できませんので、Cが解を持つならば複数解となり、Cも棄却されます。よってAの真右はDのように白マスとなります。

1の真下についても全く同じことが言えますから、AからEまで一気に飛ばすことができます。

正攻法では1の手筋が必要ですが、Eの状態からは右辺の直立長方形にふたをすることで展望が開けます。

[図3]

その4:強制的な幅の不一致

[例題4]を見てみましょう。

[図4]Aでは、図に示す赤色の2つの長方形が繋がるか否かが不明です。

ここでBのように進めると、2つの長方形の幅が等しくなりますので、2つの長方形が繋がる(D)か繋がらない(E)かが真に判別できなくなります。すなわちBは解を持つならば複数解ですから、唯一解性により棄却されます。

従ってAからはCのように上側の長方形の幅を広げ、2つの長方形が繋がらないことを確定させる必要があります。本問のように正攻法(風船ガム)が分からない場合には役立つでしょう。

この推論は「長方形を広げると破綻しやすくなる」シャカシャカの性質に真っ向から反しており、興味深いです。

[図4]

似た例を1つ挙げておきます。[例題5]

Bは解を持つならば複数解ですので、AからCへ進めることができます。正攻法(LP1)より余程簡潔です。

[図5]

その5:呼鳥門

[例題6]を[図6]Aまで進めます。

ご存知の通り、呼鳥門はAの左上の橙部分のような形が2択になる手筋です。呼鳥門は形を2通りに絞ることによって「壁」が作れる便利な手筋ですが、どこかで2通りを1通りに絞り直さなければならないという弱点もあります。

もしAからBへ進行して呼鳥門だけが入った空間を作ると、DとEの2択が確定できなくなってしまいます。故にBは解を持つならば複数解になり、棄却されます。

逆にAからCへ進行すれば、FとGの2択においてFを破綻させることができ、Gまで確定します。

正攻法では先に右下をL字禁で埋めることになりますが、この性質を使えば最後まで残されがちな呼鳥門を早く処理することができます。

[図6]

唯一解理論の吟味

何より唯一解理論は特定の状況において極めて便利です。上に挙げた例題1〜6はいずれも手筋のみで突破するにはある程度のテクニックを必要としますが、唯一解理論を適用することでより単純な状況に帰着させることができ、解を特定することに限っては無類の有用さを誇ります。

興味深いことに、ペンシルパズルガチャで生成された問題は(体感ですが)唯一解理論が有効に働く盤面が多くなっています。

 

一方で通常のシャカシャカ作問において、これらの推論は脅威どころか存在が致命的です。例えば呼鳥門は「2択が確定しないまま他の部分を埋め、最後に2択を確定させる」というシステムを問題のコンセプトにする利用法がしばしば用いられます。そして唯一解理論の前には斯様な仕掛けは全く無力です。

唯一解理論の存在は、作問において唯一解理論が適用可能な形状を避けるためのコストを要求するという意味で、作問に対する制約たりえます。

ご覧の皆様、どうか人間私が作った問題には唯一解理論をなるべく使わないよう、何卒お願いいたします。

 

また、唯一解理論を正しく利用することは難しく、リスクがつきまといます。

例えば[図7]のように、隅から(4,4)の位置に1が浮いていて他に何もない場合、図7右のように決まることがあります。実際、1の代わりに0が置かれている場合はこの推論は(唯一解理論関係なく)正しいですし、少ない数字で極めて広い範囲が決定するかっこいい形です。

きなこ屋は以前、「他に何もないなら、広大な左上を唯一解にする方法は図7右の決まり方しかない」とさえ考えていました。

しかし図7の推論は唯一解理論から見ても正しくありません。実際に[例題7]のような反例が存在します。とりわけシャカシャカでは広大な空間が意外な方法で充填されることがあり得ます。「他に決めようがないだろう」という感覚や経験だけで唯一解理論を適用するのは危険なのです。

[図7]

というわけで

  • 唯一解理論はなるべく「知らないふり」をしよう
  • 証明されている唯一解理論だけを使おう

という提唱でした。

良き手筋ライフを。