2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧

博士の失われた自省録 #11 (終)

#11 Memory Lapse 擬空間。 地の彼方と空の果てとが交わる臨界点。此岸と彼岸の誘導路。 存在を失くした冒険者たちが骨を埋める墓場。 ほんの偶然で動き出したエレベーターは、勇敢な二人の探究者たちによって、初めて内側からこじ開けられようとしている。 …

博士の失われた自省録 #10

#10 Essense Scatter 「これが『地図帳』か。異質だな」 彼は装置の液晶を覗き込んで、九つの変種が重なり繋ぎ合わされた図を観察すると、素直な感想を述べた。疲れていながらもまた直ぐに戦えるよう、銃は握ったままだ。 「これも解く必要があるんだな?」 …

シャカシャカでシャカシャカを作る

こんばんは。きなこ屋です。 早速ですが、次の[問題1]をご覧下さい。 [問題1] 次に、[問題2]をご覧下さい。 [問題2] この2つは同じ問題です。 シャカシャカをやり過ぎて壊れた訳ではありません。[問題2]は[問題1]をシャカシャカとして実現したものです。 こ…

博士の失われた自省録 #9

#9 Force of Will 次々に現れる土とも草とも風ともつかない奇妙な極彩色の塊。それが生まれるや否や、女は唐紐のような数式を書き連ね、男は眩い光弾と火柱を次々に放つ。赤銅色の巨大な装置の鳴動に鼓動と息を合わせるが如く、ここに二人の探究者たちは輝き…

博士の失われた自省録 #8

#8 Sublime Epiphany 正直に言えば、空腹と疲労、それに眠気までもが一歩ずつ私の背中を迫り上がっている。だが話を止める理由にはならない。脱出の希望に目を輝かせるShadeも、長旅と戦い続きで限界の筈だ。 「この装置は――これさえも貴方に説明できていな…

博士の失われた自省録 #7

#7 Fuel for the Cause 「最初にエージェントだと名乗った時、貴方は戦闘狂なのだと思ったわ」 私達は装置に寄りかかって隣に座り、互いに誤解を解くことから始めた。 「一般論としては正しいな」 「でも、貴方は違う。装置の側で戦い続けるよりも喜んで測量…

博士の失われた自省録 #6

#6 Dissipate エージェントは捨て駒だ。 P3の理念や見解ではないし、誰かがそう言い触らした訳でもない。しかし研究員も管理員も果てはエージェントたち自身でさえも、悪辣な無邪気が蜂蜜の様に浸透していることを知っている。 俺たちは唯与えられた命令と本…

博士の失われた自省録 #5

#5 Dream Fracture 日が傾きかけた頃、装置の赤いランプが点灯し、何度目かの生産を予告した。二種混合の生成を始めてからこれで四回目だ。Cadyは計算の手を止め、愛用の杖を取り出した。 戦うことに不安は無い、それは私の本心よりも寧ろ強迫的な信念に近か…

博士の失われた自省録 #4

#4 Test of Talents 「暑い」 Shadeの呟きに答える草は一本もなかった。既に南中を越した眩い太陽をひたすらに目指し、草原を真っ直ぐに歩き続ける。 振り向くとあれだけ存在を主張していた赤銅色の装置はとうに陽炎の彼方に消えており、それに代わる何かは…

博士の失われた自省録 #3

#3 Reasonable Doubt 開けた場所で――ここでは遍くそうだが――ひとしきり自分の武器を興味深く振り回した後、Shadeは満足気に戻ってきた。 「異世界が気に入ったのね。貴方は戦いが好きなの?」 「ん? いや、別に……」 彼はまだ惚けているように、獲物を恭しく…

博士の失われた自省録 #2

#2 Saw It Coming どこまでも視界は青と緑だった。 雲ひとつない空の下、少し歩いては立ち止まり、膝を屈めて足元の草の何本かに触れ、また立ち上がっては歩き出す。Shadeはそうして、少なくとも半径数十メートルの近辺には草以外に何も存在しないということ…

博士の失われた自省録 #1

#1 Essense Capture ――長く短い眠り。 水底に沈んでいたShadeの意識は急速に引き戻された。 頬に水がはねる感覚を得て、目を開いた。本物の水だ。 青空の下、俺は草茂る地面に仰向けに寝ていた。よく知る空はこんなに鮮やかだっただろうか? 雨も降っていな…